何もなかった。
ただ煉瓦の欠片と蛾の死骸があった。

わたしはそっと足を踏み入れ、立ちつくす。
西の窓から上弦の月が見える。

上から降ってくるぱらぱらと、誰かの足音が聞こえた。
そしてひゅっと風を切る音がした。


--ラヴアンドピースの殉教者たちへ。
--わたしたちの未来が見えますか?


時計塔の、一分ごとに今もまだ動いている針の音。
かつては重要文化財であったろう木のぬくもり。

寒々しい空の泣き声、耳鳴りというメッセージは、何もよこさなかった。
わたしは無表情で立ち去った。

後ろの方で、蛾の羽ばたきが聞こえた。